
細川家の庶子に生まれまして。
教科書はこの男を「最も無力な将軍」と書いた。——だが彼は、一度も詰まされなかった。 足利義昭。室町幕府最後の将軍にして「失敗した将軍」——京を追われ、流浪し、ついに天下を取れなかった男。だが将棋で言えば、彼は詰まされていない。投了もしていない。 これは、その義昭(覚慶)の傍らで、ひたすら盤を読み続けた男の話だ。名は覚円。あちら側の記憶を持つ、追い詰められた王の逃げ道を見つけることだけに異様に長けた、勝ちきれない「逃げの天才」。 覚円は逃がす。ところが覚慶は、逃がされた先から戦い始める。守られるはずの玉が、退くことを知らない怪物だった。 逃がす天才と、退かない怪物。二人が乱世を走り出す。 昼寝から起きて鹿に負ける、しょうもない優男。その裏に、誰も見ていない痛みと、折れない何かを抱えた人。覚円だけがそれを見てしまう。 詰まないことが勝ちなのか。この人にとっての本当の「勝ち」とは何か。——「失敗した将軍」は、実は負けなかった。その意味を確かめる旅が、奈良の寺の片隅から始まる。
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2026年7月6日 22:22更新全1章更新日:2026年7月6日 22:22
天文十六年(1547年)、京。 又次郎は、細川家の一門衆細川晴賢の家にいた。 そして晴賢の死後に身を寄せた、細川晴広邸で、木太刀を振る十五歳の少年——細川藤孝に出会う。 戦国前夜の京で、又次郎の最初の物語が始まる
エピソード一覧
第0話「見ろ、だが口にするな」(前)
公開日:2026年5月2日 12:47改稿
第0話「見ろ、だが口にするな」(後)
公開日:2026年7月6日 22:17改稿
第1話「明日も来い」(前)
公開日:2026年5月2日 12:47改稿
第1話「明日も来い」(後)
公開日:2026年7月6日 22:22
第2話「読み」
公開日:2026年5月2日 12:47改稿
第3話「江口の戦い」
公開日:2026年5月2日 12:47改稿
第4話「詰みです」
公開日:2026年5月2日 12:47改稿
第5話「勝つことに興味がないだろう」
公開日:2026年5月2日 12:47改稿
第6話「逃げ出してしまえ」
公開日:2026年5月2日 12:48改稿
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